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 その日は珍しいものが、あたしを起こした。



------- 雪〔桃〕



「まぶし……」
 目を閉じていても明るく差し込んでくる無遠慮な光に、思わず片手を上げて遮りながら目を開ける。
 朝日が射すような方向に部屋があるわけでもないのに。そう思いながら、その眩しさの光源に近づいて。
「ふわぁ……」
 窓から覗き見た景色は一面真っ白な雪景色。まだ足跡一つ付いてないその美しさに、思わずウキウキと心が跳ねる。
「ほら見てシロちゃ……」
 嬉しさに勢いを付けて出たはずの言葉は途中で消えて。浮き足立っていた心がまるで雪のように静かに降り下りた。
 今は、自分はひとりなのだと唐突に気付く。くしゃりと、明らかにさっきまでとは違う笑顔で頬が緩んだ。
「……最近は言わなくなってたのになぁ」
 寝ぼけてたせいもあるのかなって、一人苦笑する。ぽつりと落ちた言葉は、今までの分と一緒に静かに足元に降り積もっているから。

『ねえシロちゃん』
 そういいながら振り返って。統学院にきた最初の頃は、何度もやってしまっていたその癖。
そこに当たり前のように求めた姿が無いことに気がつかないまま、伸ばしそうとした手が中途半端な場所で固まってしまっていた。
 そうしてしまう度に、思っていた以上にシロちゃんと一緒にいたんだなって、何度も苦笑と一緒にその言葉の欠片と喪失感を落とした。
 何度も繰り返していくうちにそんなことを言っていられないくらいに忙しくなってもいたし、友達だっていっぱい出来たから、最近ではしなくなってたんだけど。
 ……でも、やっぱり誰かが誰かの代わりになるなんてことは、ない、から。
 肌寒さと共に訪れた寂寥感に、ぽつりと呟く。
「……どうしてるかな、シロちゃん」
 雪を見ると、機嫌を悪くしていたシロちゃん。今頃もまた、眉の間に皺なんて寄せて、雪を見てるのだろうか。
「折角名前に『冬』が入ってるのに。もったいないな」
 そう思って、昔は嫌がるシロちゃんを雪が積もるたびに何度も外に連れ出して。一緒に雪の中に飛び込んだりして。
 あの時の心底驚いたようにまん丸になった目を思い出してくすくす笑う。
「ああ……でも」
 たまに見せていた、見た目の小ささに合わない落ち着きは、冬の持つ静謐さに似ているかもしれない。……そういえば、髪の色も雪に似てるから、首から下を埋めたら”かくれんぼ”したらわかんないねとも話してた気もする。
 それは全て、今となっては思い出の中から取り出したものばかり。
 まるで、雪を被ったシロちゃんを土の中から掘り起こしているような気分になって。


 こつん、と窓に額をぶつける。
 窓はひんやりとしたって言うには冷たすぎたけど、鼻の奥がつんとして、少しだけ瞼が熱くなっていたあたしには、丁度よかった。







 またしてもCのイラストからイメージで、〔シロ〕と対っぽく。元絵はこちらですv
 見返り美人の淋しそうな表情から「シロ〜」の癖の部分が思いついて書きたかっただけなはずなんだけ……ど……何で私が書くと微妙に暗くなるのか;
UPが遅れたのは、御題の方に流用しようかと悩んでいた為(せこい)

2004/06/21 初出  【出雲 奏司】

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