戯れに煙草を吸うようになったのはいつからか。
そして隠れてそうしていたのにいち早く気付いて、騒がしく怒るやつが出てきたのはいつからか。
------- 煙草
「日番谷くん、また執務室で煙草吸ってたでしょ!」
甲高い怒鳴り声に、日番谷はまたかと頭を抱えた。
「部屋の中入ったらすぐ分かるんだから!」
この台詞を聞くのも何度目だろうかと思いながら、それでもなんとか難を逃れようかと適当に言い訳をでっち上げる。
「それはたまたま松本がここで吸っただけで……」
「副官さんが吸わないのは知ってるよ、あたし」
自信満々で答える雛森に、日番谷はぐっと息を詰まらせる。こういうとき無駄に交友範囲が広いというのは問題だ。
「別にオレが何しようと勝手だろーが!」
「あ、そういうこと言うんだ」
開き直った日番谷に、むっと雛森は顔をしかめる。
「もう隊長さんになったんだから我侭言ったりしないの! 大体ね、執務室は十番隊の人以外にもたくさんの人が来るんだから気にしなきゃいけないの。煙草のにおい駄目な人いっぱいいるんだよ!?」
そしてここぞとばかりに正論を日番谷に叩きつける。
「京楽はどうなんだよ」
「人は人! 日番谷くんは日番谷くん!! 悪い事まで真似しなくてもいいのっ!」
傍から聞いていると八番隊隊長に対して随分な言いようである。……が、それにはひとまず目を閉じるとして。
言うことが完璧に小さい子に対するしつけのレベルだというのはどうなのだろうか。いつまでたっても弟扱いされない事実を突きつけられているようで、日番谷の苛立ちは倍増する。
……が、雛森にそんなことは分かるはずもなく。
「大体そんなもの吸ってたら、ますます背が伸びなくなるよ」
あたしよりも背が低いのに。ぼそりと呟かれた言葉は、その苛立ちの限界への挑戦状と日番谷は解釈して。
こうなると最早意地だ。いかに人に――ひいては雛森に気付かれずに煙草を吸うかということに重点が置かれるようになるのに、時間はかからなかった。
……のだが。
―― 数十年後 瀞霊廷・十番隊執務室
「最近隠れて吸わなくなったよね」
「あ? 別に」
執務室から聞こえてくる聞きなれた会話に、松本乱菊はその戸を叩こうとした手を止めた。聞こえてくるのは、他隊のはずなのよく聞く雛森の声と、面倒そうに答える隊長の声。
「でも最近煙管出すことが増えてるんだから。休憩に少しならいいかもしれないけど、集中力がなくなって後で大変なのは日番谷くんなんだからね?」
「はいはい分かったからとっとと行けって。さっき地獄蝶で伝令が来てただろうが」
「本気で聞いてないでしょ!? いい? 煙草吸っちゃ駄目だからね!」
「分かった分かった」
投げやりな返事に、もうっ! と怒りを含んだ声と共に執務室から小柄な姿が飛び出す。
それを見つけて乱菊はクスリと笑みを洩らす。その笑い声に気付いて、雛森は慌ててその場に立ち止まった。
「あ、乱菊さん!」
いつもすみません、とぺこりと頭を下げる雛森に乱菊はひらひらと手を振って首を振る。
「いいのいいの。あんたのおかげで、ウチの隊長暫く大人しくなるし」
大人しくなると言うか、マジメに機嫌よく仕事を片付けるようになると言うか。分かりやすい辺りがまだまだ子供だと、どこか年寄りめいた事を思いつつ乱菊は労う。
「でも、あんたもマメだねェ」
「うん……放っとくとすぐ吸おうとするから気になってしまって。乱菊さんも見つけたらすぐ取り上げていいですから」
わかった、と応じたものの。実の所隊長が喫煙する時は雛森が見ているときか、その前後でしかないのだが……と思っても言いはしない。仕事の効率が良くなるのは願ったり叶ったりだし。
何も知らない雛森は、なおも言う。
「最近はあんまり隠さなくなったみたいで。前は隠れて吸ってたから、隠さないでくれるのは嬉しいんですけど……」
それはそれで目が離せなくて。
そう苦笑する雛森に、そうねぇと似たような表情で返しながら、乱菊は込み上げてくる笑いを必死で噛み殺す。隠さなくなった理由を気付かない方がこの場合幸せなのかどうなのか。言おうかしらとちらりと考えたところで、背後から心なしか視線が突き刺さるような気がして乱菊は話題を変える。
「ほら、急いでたんじゃなかったの?」
「あ、はい!失礼します!!」
伝令が来ていたことを思い出し、雛森は挨拶もそこそこに踵を返す。
ぱたぱたと忙しく駈けていく後ろ姿を見送って、乱菊は再びクスリと笑みを洩らして隊室を振り返った。
その先には、煙管をさして楽しむ風でもなく吸う隊長の姿。
すたすたと近寄って、その煙管を抜き取る。
「何だ」
「遠慮なく取り上げるように頼まれましたので」
そうかよ、と声は不機嫌だが抵抗も取り返す素振りもない。丁寧に吸い殻を落として、そのまま本来の置き場へと仕舞い込む。
「隊長、帰したくないからって駄々こねるのやめたらどうですか?」
どうせいつものように、帰ろうとした雛森の前で煙管を出して見せたのだろうと見当をつけて問う。
「別に吸いたくなったから出しただけだ」
怒るのはあいつの勝手だ、とひねくれて返すところはまだまだ子供。そんなことを言っておいて、雛森が放っておけないのが分かりきっているからこその行動だろうに。
「あんまりいじめているとそのうち愛想尽かされますよ」
「言ってろ」
一体その自信はどこから来るものか。やれやれと頭を振りかけて、乱菊は破顔した。
……思っても仕方ないのかもしれない。ずっと前から飽きることなく、どんなに五月蝿がられても雛森は注意をやめようとしなかったのだから。
これからも会う口実作りとは知らず、ちょこちょこと顔を出しては注意を聞き流される雛森の苦労と、そしてその度に笑いを堪えねばならないだろう自分の運命を思って、松本は空を仰いだ。
戯れにくゆる白煙と、その周りで軽くパタパタと駆け回る音は、今日も瀞霊廷に響いている。
こまの煙草の話よりw 以下抜粋。
『雛が見てない時しか吸ってないか、雛が気付けるときしか吸ってないかどっちにするかちょっと迷うところですね!
見てない時に吸う≫見られると煩い。そこまで干渉するな、お袋かお前は。というかいつまでたっても子ども扱いかよ!!(イラツキ)
気付けるときしか吸わない≫このときは別に煙草が好きなわけでないが、雛に構ってもらえるから。隊長職で忙しくて只でさえ少ない共有時間を増やそうとする健気なシロ(爆笑)それを乱菊さんに気付かれたり。』
んで、こんなになりましたと(笑)ある意味合作v
2004/06/13 初出 【出雲 奏司】