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------- 花を愛でる


「こんだけの花、よく育てる気になるな」
 それは感心と言うよりは寧ろ呆れを多く含んだ声。
 四季折々の花を常に咲かせるその場所は、当然ながら数も種類も呆れるほど多い。
 雛森は水の入った桶と柄杓を手に、その花々の間を縫うように水を与えて回る。
「うん。大変だけどね、とても綺麗だから」
 そう言いながら、『綺麗』と評する花と同じ程に華やかに雛森は咲(わら)う。
 手をかけたその分だけ、美しく咲いてくれるのだといっていたのは誰だったか。その素直さは雛森のそれと、良く似ているとも。……後者を言ったのは、いつも穏やかに笑って見せているコイツの隊長か。
「あ、見て見て日番谷くん! これももうすぐ花が咲きそうだよ」
 手招きして本当に嬉しそうに笑う雛森に、「おー」とやる気無さげに日番谷は近寄る。花に夢中になっている雛森は、そんな日番谷の態度に目もくれず、しきりに蕾をつけたその植物を覗き込んで顔を寄せる。
「このお花ね、咲くととてもいい香りがするって藍染隊長が言ってらしたの。咲いたらまた日番谷くんのところにも持って行ってあげるね」
「……そりゃどーも」
 いっつも殺風景なんだからと、これまでも何度か雛森は隊室に花を運んできていた。それの面倒を見るのは専ら松本の方で。『隊長も面倒みて下さいよ』と、また言われることになるのだろうと思えば少々気が重くなる。
 が、ここまで楽しそうにしているのを見ていればそんなことを言うのも気が咎めて。
「ホントによく飽きねえな」
 代わりに出たその言葉に、「うん!」と雛森は無邪気に笑う。
「日番谷くんも育ててみない? ここにあるのなら、好きなの分けてあげるよ?」
 色とりどりに咲き乱れる花々は、雛森の目にはどれも美しく、大切なものなのだろう。その美しさを同じように共有したいという思いも分かる。そう、例えば彼女の隊長のように。
 だが……
「いらねーよ。こっちはひとつだけで手一杯だっての」
「え? 日番谷くんお花育ててたんだ」
 何の花? と無邪気に聞いてくるこいつには罪はねえんだろうけど。
「……ボケ」
「木瓜(ぼけ)の花?」
 首を傾げてきょとんとする雛森に、日番谷はこっそり溜息をついた。

 だから手一杯だって言ってんだろーが。ボケ桃。







 本当は拍手用に書いていたものなのですが、色々訳あって没に。
 雛森花の世話したりするの好きそうだなーとか、雛森はたくさんの花を見て目を輝かして、日番谷はただ一輪を遠くから愛でるタイプだよなーとか考えつつ。
 とりあえず、そのボケの花ならぬ桃を枯らすなよとエール日番谷に送って……(野暮)


2004/07/10 初出  【出雲 奏司】

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